見えないからこそ、行く前に知っておきたい。伊勢神宮を頭の中に描く旅支度

私は目が見えなくなってから、旅行そのものにあまり興味を持てずにいました。

旅行に出かけても、景色を見ることができません。

周囲の人たちが「きれいだね」「すごいね」と話していても、景色をイメージできない。

そんな経験もあり、旅行そのものに、あまり興味を持てなくなっていたのだと思います。

私と妻はともに全盲です。ただ、二人とも中学生の頃までは目が見えていました。

夫婦ともに全盲ということもあり、これまで家族だけで遠くへ旅行する機会はあまりありませんでした。子どもたちのお出かけなどでは、親戚やおじいちゃん、おばあちゃんにお願いすることもありました。

この夏、家族4人で2泊3日の旅行に出かけます。三重県を訪れるのは初めてです。

家族での遠出の旅行としては、今回が2回目です。鳥羽水族館や伊勢神宮へ行く予定です。

映画を見て気づいたこと

今回、旅行のことを考えるきっかけになった出来事がありました。

先日、家族で映画を見に行きました。

これまで映画を見ている途中で、「あのキャラクターって、どんな姿なんだろう」と気になることがありました。

物語はどんどん進んでいくのですが、そのキャラクターの姿が頭の中に浮かんでいません。一度それが気になり始めると、どこかもやっとした感じが残ります。

映画が終わってから家族に、「あのキャラクターって、どんな姿だった?」と聞くこともありました。

今回は映画を見る前に、あらすじだけでなく、登場するキャラクターの姿についても少し調べてみました。

猫のような姿。うさぎのような姿。

そんな情報を先に頭に入れてから映画を見ました。

すると、頭の中にキャラクターを思い浮かべながら見ることができました。そこに映画の音や音声解説が加わります。

以前よりも、ずっと物語に集中して楽しむことができました。

同じ映画を見るのでも、前もって情報があるだけで、こんなに違うのかと思いました。

私の場合は、キャラクターがどんな姿なのか分からないと、そのことが気になってしまい、ストーリーに集中できないことがあります。

一方、うちの奥さんは、映画を見る前に出演している俳優さんを確認することがあります。俳優さんのこともよく覚えていて、普通にテレビや映画を見ている途中でも、気になる声がするとすぐスマホで調べて、「この声、○○だった!」と確認しています。

映画では、誰がどの発言をしたのかということが、とても大切です。思っていた人とは違う人の発言だったと分かると、同じ言葉でも場面の意味が変わってくることがあります。

私は中学生の頃に目が見えなくなってから、テレビを見ることがずいぶん減りました。いろいろな人が出てくる番組では、声だけでは誰の発言なのか分からず、内容についていけないことがあったからです。

そのため私は、今でもタレントさんや俳優さんの声を聞いても、誰なのかほとんど分かりません。俳優さんの名前にも、あまり詳しくありません。

私とうちの奥さんは、同じ視覚障害者で、二人とも中学生の頃までは見えていました。それでも、テレビや映画の見方はこんなに違います。

私は、キャラクターがどんな姿なのかという情報があると、頭の中にイメージを作りやすくなります。奥さんは、誰が出演しているのか、誰が話しているのかが分かることで、内容を追いやすくなります。

必要としている情報は少し違いますが、見えないことで自然には入ってこない情報を補うことが大切だという点は、二人とも同じなのだと思います。

旅行も同じじゃないかな?

こうした映画の経験から、「旅行も同じじゃないかな?」と思いました。

見えている人は、駅を降りた瞬間に、その場所のいろいろな情報が目から入ってきます。

駅前には何があるのか。鳥居はどんな形なのか。町並みはどんな様子なのか。森があるのか。橋があるのか。

そうした情報を、その場で見ることができます。

でも、私にはその情報が自然には入ってきません。

場所の名前だけ聞いても、その場所が頭の中にできていなければ、「今、自分はどんな場所にいるんだろう」という状態になります。

そこで今回、伊勢神宮へ行く前に、伊勢市駅から外宮の正宮までの道を詳しく調べてみることにしました。

今回の調べ方は、公式サイトや観光案内の文章で情報を確認し、写真については、私自身は見ることができないため、ChatGPTに画像を確認してもらい、鳥居の色や形、周囲の様子を言葉で説明してもらうという方法です。その説明を聞きながら、自分の中に残っている見えていた頃の記憶と結びつけて、景色を頭の中で組み立てています。

伊勢市駅を出ると、大きな木造鳥居がある

伊勢市駅で外宮へ向かうJR側の出口を出ると、駅前に大きな木造の鳥居があります。

赤く塗られた鳥居ではありません。木そのものに近い、少し灰色がかった茶色の鳥居です。

左右に太い丸い柱が立ち、その上に長い横木が渡る、すっきりとした形をしています。

紹介されている資料では、高さは約5.3メートル、幅は約4.5メートルとされています。人の背丈が1.7メートルほどだとすれば、およそ3人分の高さです。

かなり大きな鳥居だということが分かります。

駅を出たところに、そんな大きな木造鳥居が立っている。これだけでも、私はずいぶん景色を想像できるようになりました。

ただし、ここはまだ伊勢神宮の森の中ではありません。

周囲は舗装された駅前広場です。駅があり、道路があり、横断歩道があり、その先に町の建物が並んでいます。

私は最初、伊勢市駅を出ると、すぐ鳥居をくぐって神社の中へ入るような景色を想像していました。

実際には、駅前の鳥居は外宮そのものの入口ではありません。ここから外宮へ続く外宮参道が始まります。

「外宮」と二つの参道を分けて考える

ここで、私自身が調べながら少し混乱したことがあります。「外宮参道」と「表参道」という、よく似た名前の道が出てくることです。

まず「外宮(げくう)」は、豊受大御神をお祀りする豊受大神宮のことで、その神域の中に正宮や別宮などがあります。外宮の中心となるのが正宮です。

伊勢市駅から火除橋のある外宮の入口まで、町中を通って続く道が「外宮参道」です。伊勢市観光協会の2026年版パンフレットでは、この伊勢市駅と外宮を結ぶ参道を約400メートルと紹介しています。伊勢市観光協会では、伊勢市駅側の出口から外宮表参道入口までは徒歩5分程度とも案内しています。

一方、火除橋を渡って外宮の神域に入り、正宮へ向かう玉砂利の道は「表参道」です。伊勢神宮のバリアフリー地図では、この表参道は正宮まで片道約400メートルと案内されています。また、伊勢神宮公式の「よくあるご質問」では、入口の火除橋から正宮までは徒歩約10分とされています。

つまり、伊勢市駅から火除橋までは町中の「外宮参道」。火除橋を渡ってから正宮までは神域内の「表参道」です。名前が似ているうえ、どちらも約400メートルという案内があるので、最初はとても分かりにくく感じました。

音響信号を渡り、町中の外宮参道へ

駅前の木造鳥居の先には道路があります。その道路を横断すると、外宮参道に入ります。

伊勢市のバリアフリー情報では、この周辺の歩行者用信号には視覚障害者用の音響装置があり、外宮方向へ渡る際には「ピヨピヨ」という音が鳴ると案内されています。

こうしたことは、実際に歩く私にとって大切な情報です。

また、この周辺には歩道と車道との境に段差がない場所もあるそうです。

見えていれば、歩道と車道の違いを目で確認できます。白杖で歩く場合は、段差がないという情報を先に知っているだけでも、注意する場所が変わります。

横断歩道を渡ると、外宮参道です。ここは森の中ではありません。

飲食店やお土産店、旅館などが並ぶ町中の道です。

ここで歩いているのは、伊勢市駅から火除橋のある外宮の入口まで続く、町中の「外宮参道」です。距離は約400メートルで、徒歩では5分程度が目安です。

駅を出て、すぐ静かな神宮の森に入るのではない。まず町中の参道を歩いて、それから外宮に着く。そこまで知ると、駅からの道が頭の中につながってきました。

町の風景から、火除橋へ

外宮参道を歩き終えると、外宮の表参道入口です。

ここに火除橋(ひよけばし)があります。

神域の入口には防火のための堀川が流れ、そこに火除橋が架けられています。

神域(しんいき)というのは、神様をお祀りする神聖な区域のことです。

火除橋は、大きな川を渡る長い橋ではありません。ChatGPTに画像を説明してもらったところ、小さな堀を越える短い橋とのことでした。

両側には欄干があります。そして橋の向こうには、大きな木々が広がっています。

ここで、駅から続いてきた町の景色が変わります。

駅前。町中の外宮参道。そして火除橋。その橋の向こうには、大きな木々。

「ここから神宮の中へ入っていくんだな」と私は思いました。

手水舎を過ぎ、第一鳥居へ

火除橋を渡ると、手水舎(てみずしゃ)があります。ここで手と口を清めます。

その先に第一鳥居があります。

第一鳥居の画像についてもChatGPTに説明してもらうと、駅前の鳥居と形も色合いもよく似ているとのことでした。

こちらも木造です。赤く塗られているわけではなく、木そのものに近い、灰色がかった茶色です。

太い2本の柱の上に横木が渡る、簡素な形です。

駅前の鳥居と第一鳥居。形も木の色もよく似ています。

大きく違うのは、周りの景色です。

駅前の鳥居の周囲には、駅、舗装された広場、道路、横断歩道、町の建物があります。

一方、第一鳥居の周囲には大きな木々があります。鳥居の向こうにも木々と参道が続いています。

同じような木造の鳥居でも、駅前の鳥居は「町の中に立つ鳥居」、第一鳥居は「大きな木々に囲まれた鳥居」。私の頭の中では、まったく違う景色になりました。

第一鳥居の正確な高さや幅は、今回確認した公式資料では分かりませんでした。そのため、駅前の鳥居と同じ大きさかについて比較することはできませんでした。

ただ、画像について説明してもらった内容では、こちらも太い木を使った大きな鳥居とのことでした。

第一鳥居の先は玉砂利

第一鳥居をくぐると、玉砂利(たまじゃり)の参道を進みます。

私はここを、実際に歩くのが楽しみです。

駅前は舗装された場所。外宮参道も町中の道。火除橋を渡る。第一鳥居をくぐる。そして足元が玉砂利になる。

足の裏から伝わってくる感じも変わると思います。白杖の先から伝わってくる路面の感触も変わるでしょう。

玉砂利を踏む感じ。

周囲は大きな木々になるため町中で聞こえていた車や店の音が、どのように変わるのか。風や空気はどう感じるのか。実際に歩くのが楽しみです。

火除橋から外宮の正宮までは、徒歩で約10分と案内されています。伊勢神宮のバリアフリー地図では、神域内の表参道は正宮まで片道約400メートルとされています。

その先に、外宮の中心となる正宮があります。

祀られているのは、豊受大御神(とようけのおおみかみ)。天照大御神(あまてらすおおみかみ)のお食事を司る神様です。

まだ行ったことがないのに、景色が浮かんできた

こうして一つずつ調べていくうちに、まだ一度も行ったことのない伊勢神宮が、少しずつ頭の中にできてきました。

伊勢市駅を出る。大きな木造鳥居がある。その先の音響信号を渡る。町中の外宮参道を歩く。火除橋を渡る。手水舎で清める。大きな木々に囲まれた第一鳥居をくぐる。足元が玉砂利に変わる。そして正宮へ向かう。

旅行に行く前なのに、頭の中では少しずつその道を歩けるようになってきました。

見えていた頃の記憶も使っている

冒頭に書きましたが私は中学生の頃までは目が見えていました。

そのため、駅前広場、大きな木造の鳥居、町中の商店街のような通り、小さな堀に架かる橋、大きな木々、玉砂利といった言葉を聞くと、以前見たさまざまな景色を思い出すことができます。

その記憶を組み合わせて、「伊勢神宮は、こんな感じなのかな」と頭の中に新しい景色を作っています。

中途で視覚障害になった方で、以前伊勢神宮へ行ったことがある人なら、「ああ、あの場所だ」と昔見た景色を思い出すこともあるかもしれません。

行ったことがない人でも、自分がこれまで見てきた駅や鳥居、神社、森などの記憶を使って、景色を思い浮かべることができるのではないかと思います。

見える家族や支援する人にも知ってほしい

今回の記事は、視覚障害のある方だけでなく、家族やヘルパーさん、支援に関わる方にも読んでもらえたらと思っています。

見えている人にとっては、「大きな鳥居がある」「ここから木々が増える」「橋の向こうに鳥居がある」「ここから玉砂利になる」ということは、その場に立てば自然に分かります。

でも、見えない人には、その情報が入っていないことがあります。

例えば、「今、駅前に高さ5メートルほどの大きな木造鳥居があるよ」「一つ目の鳥居の周囲は町中にあるから、まわりが新しくなっても、そこだけ昔から大切に守られてきた感じ。火除橋の向こうは大きな木がたくさんあるよ」「駅前の鳥居とよく似た木の鳥居だけど、今度は木々に囲まれた中に立ってて、まわりの景色がすべて鳥居や木々になるから、その先は別世界みたいな印象。」。

そんな一言があるだけで、頭の中の景色はかなり変わります。

私自身、今回調べながら、そのことを強く感じました。

視覚障害は「情報障害」とも言われます

視覚から自然に入ってくる情報を得にくいという意味で、視覚障害は「情報障害」とも言われます。

今回、映画を見た経験と旅行の準備を通して、それを改めて感じました。

映画を見る前に、キャラクターの姿を知っておく。

旅行へ行く前に、駅を出たときの景色や、鳥居の姿、町から神宮の木々へ変わっていく様子を知っておく。

見えない部分の情報を前もって少し補っておくだけで、体験はずいぶん変わります。

もちろん、見えている人とまったく同じ体験になるとは思っていません。

見えている人は、映画を見ればキャラクターの姿がそのまま目に入ります。旅行先では、その場の景色を見ることができます。私たちは、それを同じように見ることはできません。

それでも、見えないことで入ってこない情報を、言葉や音声解説などで補うことはできます。

そして、その情報を持った状態で映画を見たり、旅行先を歩いたりすると、何も知らない状態で体験するのとは、まったく違う経験になります。

今回、私はそれを実感しました。

まだ伊勢神宮には行っていません。

それなのに今では、伊勢市駅を出て、大きな木造鳥居を通り、町中の外宮参道を歩き、火除橋を渡り、木々に囲まれた第一鳥居をくぐり、玉砂利の上を正宮へ向かう。そんな道のりが、少しずつ頭の中に浮かぶようになりました。

そして今は、実際にその場所を歩くことが楽しみになっています。

見えないことで楽しめないと思っていたことでも、前もって情報を得ておくことで、体験そのものが変わることがある。

そう感じたので、今回はこのことをブログに書いてみました。

参考にした主な情報

伊勢神宮公式サイト「豊受大神宮(外宮)」

伊勢神宮公式サイト「外宮・域内マップ」

公益社団法人 伊勢市観光協会「外宮エリア」

公益社団法人 伊勢市観光協会「外宮参道」

伊勢志摩観光ナビ「伊勢神宮を知る」

伊勢市「第1回 伊勢市バリアフリー基本構想策定協議会 議事録要旨」

旅行読売「伊勢市駅【参宮線】|三重県」

伊勢神宮公式「内宮・外宮(車いす用)バリアフリー地図」

伊勢市観光協会「日本の源へ(2026年版パンフレット)」

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